souan-1969のブログ

熱しやすく冷めやすいままで生きていく

ほたると先生

「今からホタルを見に行きませんか」とお茶の先生から連絡があり、私はふたつ返事で出かけることにした。

 土曜日の午後8時半、ホタル鑑賞にもってこいの時間だ。以前から井手浦浄水場がおすすめたと先生から聞いていたけれど、今日、用事で家の近所まで来ていた先生が、その話を思い出して誘って下さったのだ。

 田舎育ちたけど、ホタルはほとんどみたことがない。ホタルが飛ぶような場所に、夜出掛けるのが怖いからだ。井手浦浄水場も、その名前のイメージから、勝手に幽霊が出るのてはないかと思い込み、先生に大笑いされた。

 井手浦浄水場は、家から15分ほどしか離れていない。私の住むエリアは住宅地でモノレールも走っているが、実は居住区である小倉南区は農家が多く、車を少し走らせるだけで、果樹園や田園が広がる。浄水場に近づくと、水をはった田んぼから蛙の鳴き声が聞こえてきた。子どもの頃は、周りが田んぼばかりだったため、春の雲雀と初夏の蛙の声は聞き慣れたものだったのに、ずいぶんと久しぶりに聞いた夜の声に懐かしさを感じた。

 おどろおどろしい想像をしていた井手浦浄水場は、広々とした敷地とたくさんの街灯に照らされた、とても素晴らしい眺めの場所であった。例えていうなら、美しく整備の行き届いた運動公園のイメージだ。

 果たして、ホタルはいた。数匹がふわりふわりととんだり、茂みにつかまり心許なく光っていた。今日、日中は夏日だったが夜は冷え込んでいた。半袖で出掛けようとして、あまりの寒さにウインドブレーカーとショールを取りにもどったのが正解だったほどの寒さだ。そのためか、いつもなら乱舞しているというホタルたちは影を潜めているようたと、連れてきてくれた先生はがっかりした様子だった。しかし、もともとホタルを見る機会の少ない私としては、ホタルが飛んでいるだけて大興奮である。

 井手浦浄水場の神秘的な美しさ、そこから見上げる平尾台の、夜空に浮かぶ稜線が絵本のようにすばらしい。季節を味わうという素晴らしい体験だ。さすが茶人。

 そのあと、高槻の金山川、熊谷の小熊野川とホタルの名所を回ってみる。北九州はホタルの名所が多いことも初めて知った。高槻は山手にあり気温もより低く感じられて、ホタルの姿は見られなかった。

 帰り道に寄った熊谷は、北九州市ホタル館があるなど保全に力を入れているエリアで、川沿いには観賞用デッキも備わっている場所だった。鑑賞客の姿もあちこちにみうけられる。ぱっと見ただけて、たくさんのほたるがいるのがわかる。数が多いと光も自信ありげに発光しているようだ。乱舞とまではいかないが、いままでの人生でみた、一番のホタルの数には間違いない。

 早い時間はダメ、遅すぎてもダメ、雨が強いとダメ、寒いとダメ。なんともデリケートな生き物であるが、いまこのタイミングで見る価値のあるものだと、豊かな人生を送る先輩に教えてもらう。

 ところで、そんな先生は、山道をトップスピードで駆ける飛ばしやである。車中でも、ゲラゲラと世間話をしながら、風流とはほど遠いドライブである。そんなバランスの良いすてきな人生を私もおくっていこうと思うのだ。